この記事でわかること
契約書に添えられることの多い「捨印(すていん)」。手続きの簡略化に役立つ一方で、使い方を誤ると重大なトラブルにつながる恐れもあります。本記事では「捨印とは何か?」をわかりやすく解説し、法的効力や訂正方法、押印の際の注意点、そしてトラブルを防ぐ対策まで、契約で損しないための実践的な知識をご紹介します。
捨印とは、契約書などに誤りがあった場合に、あらかじめ軽微な修正を許可するために押す印鑑のことです。以下の項目で詳しく解説します。
捨印には、法的に明確な効力が定められているわけではありませんが、実務上は軽微な誤りの訂正を事前に承認する意思表示とみなされます。たとえば契約書内の誤字脱字、日付のミス、数字の単位の間違いなどが該当します。
ただし、捨印があるからといって、契約の根幹に関わる内容(契約金額や期間、契約当事者など)を訂正することは許されません。あくまで「軽微な修正」に限られる点を理解しておくことが重要です。重大な変更がある場合は、訂正印を使った手続きを踏む必要があります。
捨印と訂正印は、見た目は同じように見えますが、その役割と使い方には明確な違いがあります。
項目 | 捨印 | 訂正印 |
使用目的 | 軽微な訂正を事前に承諾する | 実際に訂正する |
押すタイミング | 契約書を提出する前に押す | 間違いが見つかった際に押す |
押す場所 | 契約書の余白 | 訂正箇所のそば |
法的効力 | 慣習的な効力にとどまる | 当事者双方の合意が前提で強い効力を持つ場合がある |
図で表すと以下のようになります
捨印は「あとで訂正してもいいですよ」という合意のサイン、訂正印は「ここを変更しました」という実際の変更の証明です。
捨印の最大のメリットは、契約書のちょっとした誤記をわざわざ差し戻す必要がなくなることです。担当者が軽微な誤りを見つけた場合に、すでに捨印が押されていれば、その場で訂正し、手続きを進めることができます。業務の効率化や迅速な処理につながる点で、捨印は実務上とても便利です。
一方で、内容を勝手に書き換えられるリスクもはらんでいます。捨印があると、誰かが「誤字脱字の訂正」と称して本来合意していない内容に変更を加える可能性がゼロではありません。とくに金額や契約内容に関する欄に不正な訂正が行われれば、重大なトラブルに発展する恐れがあります。信頼関係のある相手でなければ、安易に押すべきではありません。
捨印を押す際は、契約書の余白に、契約書本文と同じ印鑑を用いて押すのが基本です。以下のポイントに注意しましょう。
捨印は契約書の余白、たとえば最終ページの右下や署名欄の付近など、目立たず邪魔にならない場所に押すのが一般的です。企業や役所によっては「捨印欄」として専用の記載スペースが設けられていることもあります。その場合は必ず指定された欄に押しましょう。
図で示すと以下のようになります。
また、押す位置が契約書本文の一部と重ならないように注意してください。内容に影響が及ばない余白部分に押すのがルールです。
契約書が複数ページにわたる場合は、原則として各ページに捨印を押すことが望ましいとされています。これは、後からページが差し替えられるなどの不正を防止するためです。
また、契約書に複数の署名者がいる場合、それぞれの当事者が自分の捨印を押す必要があります。相手方が勝手に自分の分の訂正を行えないようにするためでもあります。
複数ページでかつ複数人が署名するような契約書では、捨印の取り扱いに十分注意を払いましょう。
捨印には、契約書の本文に押した印鑑と同じものを使用するのが基本です。印鑑の種類については、以下のような違いがあります。
なお、実印は市区町村に登録された印鑑で、印鑑証明書と併用されることで高い法的効力を持ちます。契約内容によって使い分けが必要です。
捨印がある場合でも、訂正には決まった手順があります。以下の3ステップを踏んで正しく訂正しましょう。
捨印を使って契約書を訂正する際は、次の3ステップを踏みます。
① 誤り箇所に二重線を引く
訂正する文字に1本ではなく、読み取れるような二重線を引き、間違いがあったことを明示します。
② 正しい内容を近くに書き加える
二重線の近くに小さく、正しい内容を記入します。読みやすく、簡潔に書くことが大切です。
③ 訂正文字数を余白に記載する
「○字削除・○字加入」など、具体的に訂正した文字数を記載します。捨印が契約書の余白にあれば、再度訂正印を押す必要はない場合があります。
図で表すと以下のようになります:
捨印は便利な反面、誤用すると大きなトラブルを招く可能性があります。以下の4つの注意点を必ず確認してから押印しましょう。
捨印を押す前には、必ず契約内容を細部まで確認しましょう。「あとで直せばいい」と考えて安易に押してしまうと、予期しない変更が加えられても異議を唱えづらくなります。とくに金額や契約期間、業務範囲など、重要な項目に誤りがないかを十分にチェックしてください。捨印は「小さな印」とはいえ、書類全体の信用を預ける行為でもあります。
契約書に金額や契約期間など、重要な項目が空欄のまま捨印を押すのは絶対に避けましょう。空欄がある状態での捨印は、白紙委任状と同様のリスクをはらみます。後から勝手に金額や契約内容が書き加えられても、それを承認したとみなされる可能性があります。すべての項目が記入済みであることを確認してから押印することが大前提です。
捨印の押印は法律上の義務ではなく、拒否することができます。相手方に「捨印は押せません」と明確に伝えれば問題ありません。代わりに、訂正が生じた際にはその都度、自筆で訂正し、訂正印を押す方法を取るようにしましょう。納得できない契約書や、信頼できない相手に対しては、無理に押印する必要はありません。
捨印を押す前に、その書類を受け取る相手が信頼できるかどうかを必ず確認しましょう。官公庁や大手企業など、運用が明確に管理されている組織であればリスクは比較的低いですが、相手の素性が不明な場合や、過去にトラブルがあった相手であれば要注意です。一度押した捨印による書き換えを防ぐには、相手の信用も大きな要素です。
捨印をめぐるトラブルを未然に防ぐためには、あらかじめ対策を講じることが重要です。以下の2つの方法を実践しましょう。
捨印の近くに「誤字脱字の訂正に限る」や「日付の修正のみ有効」などと書き添えることで、不正な書き換えを防ぐ効果があります。このような記載は、捨印の範囲を限定する意思表示になり、後々のトラブルを回避する証拠にもなります。たった一文の記載が、大きなリスク回避につながるため、必ず明記しておきましょう。
捨印を押した契約書は、必ずコピーやPDFデータとして控えを保管しておきましょう。後日、書類に変更が加えられていた場合でも、押印時点の内容を証明する資料として活用できます。とくに重要な契約では、複数部作成し、双方が原本を1通ずつ保有する方法が一般的です。万一の際に備えて、記録として残す習慣をつけましょう。
捨印は契約の手続きをスムーズに進める便利な仕組みですが、使い方を誤れば大きなリスクを招きかねません。捨印の意味や法的効力、押し方のルールを正しく理解し、信頼できる相手との間でのみ慎重に使用することが大切です。あらかじめ訂正の範囲を示すなど、防止策も取り入れながら、安全な契約書管理を心がけましょう。
はい、捨印は必ずしも押す必要はありません。訂正が生じた場合は、個別に訂正印を押して対応することも可能です。
契約書の本文に使用した印鑑と同じものを使うのが原則です。シャチハタなどの簡易印は避け、認印か実印を使うのが無難です。