この記事でわかること
職務権限規程は、職位ごとの責任と権限を明確にし、適切な意思決定と内部統制につなげるための社内規程です。
職務や決裁の権限が曖昧なままでは、判断が遅れたり、責任の所在が不明確になったりする可能性があります。さらに、権限を持たない担当者が承認してしまうリスクもあるでしょう。職務権限規程を正しく作成することで、これらのリスクを軽減できます。
本記事では、職務権限規程の役割や業務分掌規程・稟議規程との違い、作成義務の考え方、必要な記載項目、作成手順を分かりやすく解説します。自社の規程を新たに整備・見直す際の参考にしてください。

職務権限規程とは、課長や部長、役員など特定の職位に対し、職務上どこまでの権限を持たせるかを定める社内規程です。対象となるのは、決裁権限や人事権限などで、購買・契約、雇用、昇格・昇給といった判断について、誰が最終的に決裁できるかを明確にします。
たとえば、購買・契約では、「100万円までは課長、300万円までは部長」のように金額に応じて決裁者を設定します。権限の範囲を文書化すれば、担当者が判断できる事項と上位者の決裁が必要な事項を区別しやすくなるでしょう。企業によっては「決裁権限規程」などの名称で整備される場合もあります。
職務権限規程を作成する主な役割は3つあります。
1つ目は、職位ごとの責任範囲を明確にし、問題が起きた際の責任の押し付け合いや判断漏れを防ぎやすくすることです。
2つ目は、上位者に全ての判断が集中する状態を避け、適切に権限を委譲することで意思決定を迅速化します。
3つ目は、起案・審議・承認・決裁を複数の役割へ分け、相互にチェックする内部牽制を働かせることです。責任に見合う権限を各職位へ割り当てることで、業務を進めやすくすると同時に、特定の担当者への権限集中を避け、権限の濫用や不正のリスクを抑えやすくなるでしょう。
業務分掌規程は、営業部、総務部、経理部など、部門や部署ごとに担当する業務の範囲を定める規程です。たとえば「契約管理は総務部」「売掛金の管理は経理部」といった形で、組織単位の役割分担を明確にします。一方、職務権限規程は、課長や部長などの職位ごとに責任と権限の範囲を定めるものです。業務分掌規程が「どの部署が何を担当するか」を扱うのに対し、職務権限規程は「誰がどこまで判断できるか」を扱う点が異なります。
稟議規程は、起案、回議、合議、承認、決裁など、社内で意思決定を行うための申請手続や運用ルールを定める規程です。職務権限規程が「どの職位にどの決裁権限を持たせるか」を定めるのに対し、稟議規程は「その決裁をどの手順で進めるか」を定めます。そのため、職務権限規程や決裁権限規程で定めた決裁者を、稟議規程上の手続や実際の承認ルートにも反映し、規程と日々の運用を一致させることが大切です。

全ての一般企業に対して、「職務権限規程」の作成を一律に求める法律上のルールは存在しません。ただし、権限や責任の所在を明確にして内部統制を強化し、業務上のリスクを管理する目的から、多くの企業で職務権限に関する規程が整備されています。
特に整備の必要性が高いのは、組織の拡大にともなって職位や部署が増え、決裁の判断基準がばらつきやすくなっている企業です。また、上場を目指す企業では、上場審査でコーポレート・ガバナンスや内部管理体制が適切に整備・運用されているかが確認されます。
東証の新規上場ガイドブックでも、社内諸規則を含む経営管理組織の整備・運用が審査のポイントとして示されています。法律上の義務がない企業であっても、決裁の遅れや権限の不明確さが業務の支障になっている場合は、自社の規模や業態に合わせて規程を整備することが重要です。
参照:日本取引所グループ「新規上場ガイドブック」

職務権限規程は、基本的な考え方を定める規程本文と、具体的な決裁事項や決裁者を整理する職務権限表・決裁権限一覧表に分けて整備すると、実務で参照しやすくなります。自社の組織や業務内容に合わせて責任と権限の範囲を具体化し、実際の承認ルートと一致させることがポイントです。記載すべき2つの項目について解説します。
規程本文には、職務権限を運用するための基本原則や共通ルールを定めます。職位ごとの責任・権限だけでなく、権限委譲や代決、緊急時の扱い、規程の改廃方法まで明確にしておくと、判断基準のばらつきを抑えやすくなります。
規程本文の主な項目
| 項目 | 主な内容 |
| 目的・適用範囲 | 規程を設ける目的、対象となる部門・職位 |
| 用語・命令系統 | 職務・責任・権限などの定義、指揮命令関係 |
| 権限行使の原則 | 権限を行使する際の基本ルール |
| 責任・権限 | 職位ごとの基本的な責任と権限 |
| 権限委譲・代決等 | 委譲、代決、緊急時の処理、報告義務 |
| 改廃・附則 | 改廃の決定機関・手続、施行日 |
職務権限表・決裁権限一覧表では、業務ごとに誰が起案・審議・承認・決裁を行うのかを具体化することが大切です。契約額や支出額、採用区分などで権限が変わる場合は、金額や条件ごとに決裁者を分けます。人事、購買、経費、契約、設備投資など、社内で判断が発生する業務を漏れなく洗い出しましょう。
職務権限表・決裁権限一覧表の主な項目
| 業務区分 | 決裁事項 | 起案者 | 審議者 | 合議先 | 承認者 | 決裁者 |
| 人事 | 一般社員の採用 | 人事担当 | 人事課長 | 配属部門 | 人事部長 | 担当役員 |
| 購買 | 100万円以下の購入 | 担当者 | 課長 | 経理部 | 部長 | 部長 |
| 契約 | 重要契約の締結 | 担当者 | 課長 | 法務部 | 部長 | 担当役員 |
| 経費 | 10万円以下の支出 | 担当者 | 課長 | 経理部 | 課長 | 課長 |

職務権限規程を作成する際は、下記の手順で進めるケースが一般的です。
1. 組織図と業務内容の把握
2. 職位ごとの責任と権限の設定
3. 関連規程との整合確認から施行まで
現在の組織や業務の実態を整理したうえで、職位ごとの責任と権限を具体化し、関連規程や実際の承認ルートまで整合させるよう注意しましょう。
まず、最新の組織図や役職、部署ごとの業務内容、現在の承認経路を把握し、実際の運用を見直します。あわせて、契約・採用・購買・設備投資など、社内で判断や承認が必要となる事項を洗い出します。正式な組織図と実際の業務分担や承認経路が異なる場合は、その差異を放置せず、どちらを規程へ反映するのかを事前に決めておきましょう。現状を正確に整理することで、実態とかけ離れた規程になるのを防ぎやすくなります。
次に、洗い出した業務ごとに、起案・審議・承認・決裁を担当する職位を割り当てます。このとき、担当者が負う責任の範囲と、実際に行使できる権限を対応させることが重要です。判断が上位職へ集中しすぎると意思決定が遅くなるため、業務内容や金額に応じて適切に権限を委譲します。また、同じ担当者へ起案から決裁までの権限が集中しないようにし、複数の立場から確認できる体制を設け、相互牽制が働く設計にすることもポイントです。
職務権限規程の案ができたら、定款や取締役会規程、業務分掌規程、稟議規程、経理規程などと照合し、権限範囲や手続に矛盾がないかを確認します。そのうえで、規程本文や別表、申請書、実際の承認経路で決裁者が一致する状態に整えます。所定の決定機関で承認した後は施行日を定め、従業員へ周知しておくことも大切です。組織変更や人事異動があった場合にも運用がずれないよう、改訂の担当部署や切り替え方法もあらかじめ決めておきましょう。

職務権限規程を整備しても、実際の承認経路が規程と異なれば、適切な権限管理はできません。ワークフローシステムを導入し、職位や金額などの条件に応じて承認ルートを設定すれば、権限のない社員が誤って決裁する事態を防ぎやすくなります。また、規程で定めた決裁者を申請書や承認経路へ反映でき、誰がいつ承認したかという証跡を保存しやすくなる点もメリットです。組織変更、人事異動、業務変更、決裁金額の見直しがあった場合も、システム上の設定を変更することで、新しい権限体系を承認フローへ速やかに反映できます。

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職務権限規程は、職位ごとの責任と権限を明確にし、適切な意思決定や内部統制につなげるための社内規程です。作成時は、組織や業務の実態を把握したうえで権限を設定し、業務分掌規程や稟議規程などとの整合性も確認する必要があります。
さらに、規程で定めた決裁権限をワークフローシステムへ反映すれば、承認経路の統制や証跡管理もしやすくなります。自社の業務内容や組織体制に合わせて継続的に見直し、実際の運用と一致する職務権限管理を目指しましょう。